2009/05/20
 
◆業界リポート◆

 

銀行セクター
 

(上)経済成長にあわせて業績拡大
 

 
 戦後日本の例を挙げるまでもなく、発展途上国の経済が高度成長期に移行する段階で中心的な役割を果たすのが銀行です。言い換えれば、経済成長にあわせて銀行の業績が拡大することになります。中国本土には現在、大小100以上の銀行が存在していますが、国有4大商業銀行といわれる建設銀行(939/HK)、中国銀行(3988/HK)、工商銀行(1398/HK)、農業銀行(未上場)が特に重要。圧倒的な経営規模を誇る4行は、資産の合計が全体の7割を占めるからです。これに交通銀行(3328/HK)を加え、国有5大商業銀行と呼ぶこともあります。世界金融危機の影響で08年から09年にかけては収益環境が悪化する傾向にありますが、長期的な成長トレンドは不変――。以下、業界を取り巻く環境をまとめてみました。
 

▽中国銀行

 
 

(亜州IR撮影)

 
 
●融資が拡大
 
 中国の銀行融資はここ数年来、国内総生産(GDP)成長率を大きく上回るペースで伸び続けています。ちょうど、マネーサプライの伸びと比例する格好です。08年に関しては、金融危機の影響でマネーサプライが鈍化しましたが、それでも貸出は着実な成長を続けています(下図)。昨年末から中国政府が金融緩和のスタンスを強めていることもあり、09年は急ピッチに回復する状態です。
 
 

(亜州IR作成)
 

 
●手数料ビジネスも好調
 
 主力の融資業務に加え、個人向け(リテール)業務で発生する手数料の収入が堅調に伸びている点も見逃せません。個人所得の増加を背景に、カード業務が持続的に拡大。また、投資信託の販売や富裕層向けの資産運用サービスなど、株式に絡む手数料の収入も急増しています。

 特に、株式に絡む手数料の伸びが目立ちます。07年の同収入は、手数料収入の3分の1を占めるほどでした(08年はやや低下)。もっとも、これに過度に依存した場合は、株式市況の変動リスクにさらされることになります。したがって、今後は市況に左右されないカード業務などの比率を高めていく必要がありそうです。
 
●不動産融資と不良債権
 
 前述した融資の拡大で注意しておくべき点は、住宅ローンなど不動産に絡む貸出の動向――。H株上場の各行は、不動産融資の比率が2割前後を占めるためです。08年に入ってからは、広東省を中心に不動産市況が下落したため、過度の不動産依存は不良債権の増大をもたらす可能性があります。

 もっとも、不良債権比率は各行の平均で3%前後にとどまることから、不動産市況が極端に崩れない限りはそれほど懸念する水準ではなさそうです。
 

 
(下)中期動向の深読み〜融資拡大の反動で伸び悩みか
 

 
 足元で金融緩和が進んでいるにもかかわらず、年後半の銀行セクターは収益環境が悪化する恐れがあります。◆不良債権の増加が想定されること、◆利ざやの改善が期待しにくいこと、◆年末にかけて銀行貸出の伸びが減速するとみられること――など複数の懸念材料があるからです。全体相場の上昇にあわせて株価が切り上がったとしても、同じ金融セクターの保険各社に遅れを取ると思われます。
 
 今年に入り新規貸出が急拡大していることは(第1四半期で4兆5800億人民元。1〜4月の累計では5兆1700億人民元に達し、政府通年目標の5兆人民元を突破)、本来、銀行セクターにとって追い風となるはずですが、業界の先行きに対する市場の見方は慎重――。それは、景気テコ入れに向けた融資規制の緩和による副作用を警戒しているからです。
 
(亜州IR作成)
 

 
 97年のアジア通貨危機時にも、融資基準の緩和に伴う弊害が明るみになっています。銀行貸出を急激に伸ばした効果で、98年第2四半期から景気がやや上向いたのですが、完全に立ち直るまでにはさらに2〜3年を要したほど。01年まで不況が続くなか、不良債権比率は20%に膨れ上がったのです。電力、水道、高速道路といった公共プロジェクトですら、不良債権比率が8%まで上昇する有様でした。

 今回の景気対策は政府案件が多いとはいえ、民間企業に比べて安全度が高いというだけ。前例を挙げるまでもなく、決して保証されたものではないのです。

 実際、各行は新規貸出案件の一部が2010年あたりから不良債権化しはじめると想定。今年の第1四半期決算から、既に準備金の積み増しを急いでいます。したがって、融資が拡大しているのにもかかわらず目先の収益が伸び悩むことが予想されるのです。
 
 
(亜州IR作成)

 
 第2四半期から利ざやが改善しはじめている状況も、それほど長くは続きそうにありません。足元の好転は、◆利ざやが薄い手形融資(一時的なつなぎ融資の性格がある)から利益率の大きい通常融資への切り替えが進んでいること、◆株式市場の活況で定期預金の比率が低下する傾向にあること(定期預金は銀行側の金利コストが高い)――などが要因。今後の追加利下げで利ざやが縮小する可能性が高いだけに、年後半は金利面で逆風が吹くと思われます。
 
 
 
(亜州IR作成)

 また、足下で急拡大した融資の伸びも、年後半は徐々に鈍化しはじめるとみられます。前述したように、融資総額は4月末時点で通年目標の5兆人民元を突破しているため、今後さらにピッチが加速する可能性は低いとみるべき。むしろ、一定のタイミングで融資基準が強化されることを念頭に置く必要がありましょう。
 


(亜州IR作成)
 

 
 こうした状況を踏まえれば、収益安定のカギを握るのは、企業向け融資と直接関係のない手数料収入ビジネスになると思われます。

 たとえば、本土株の活況を追い風に株式関連の手数料収入(投信販売など)に期待できそうです。そうなれば、個人向けビジネス(リテール)に強い民営大手の招商銀行(3968/HK)などが伸びる可能性がありましょう。

 一方、4大国有銀行の中で比較的リテールに注力しているものとしては業界最大手の工商銀行(1398/HK)が挙げられます。同行は特に、クレジットカードで強みを発揮しそうです。

 工商銀行に次ぐ規模の建設銀行(939/HK)は、リテールで工商銀行の後塵を拝します。その分、収益の伸びが鈍化することは避けられません。ただ、中央政府や地方政府に太いパイプを持つことで、比較的優良な融資案件を獲得できることは強み。それだけ、不良債権の発生を抑制できるというわけです。

 海外業務に強い中国銀行(3988/HK)は、国内融資案件の獲得能力でやや見劣りがします。交通銀行(3288/HK)や中信銀行(998/HK)と同様に、この部分で大手2行に水をあけられる可能性がありそうです。
 
 
▽工商銀行(1398/HK)の直近チャート
終値 4.81香港ドル 09年予想PER 12.42倍
 
 
 
(出所:香港経済日報ETネット)
 
 
 
▽建設銀行(939/HK)の直近チャート
終値 4.93香港ドル 09年予想PER 10.91倍
 
 
 
(出所:香港経済日報ETネット)
 
 
▽中国銀行(3988/HK)の直近チャート
 
終値 2.96香港ドル 09年予想PER 10.14倍
 
 
(出所:香港経済日報ETネット)
 
 
 
 
▽招商銀行(3968/HK)の直近チャート
 
終値 14.98香港ドル 09年予想PER 14.04倍
 
 
 
(出所:香港経済日報ETネット)
 

 
 

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